神経を抜いた歯は痛みを感じなくなるイメージがありますが、治療後の歯や周辺組織の状態によっては痛みがあらわれる場合があります。
歯の神経を抜く治療のことを抜髄といいますが、なぜ抜髄したはずの歯は痛みを感じるのでしょうか。
今回は、神経を抜いた歯が痛む原因と処置の方法について紹介します。
過去に神経を抜いた歯が痛む人や、抜髄の予後が心配な人はぜひ参考にしてください。
神経を抜いた歯や周辺組織に起こることがある症状
神経を抜いた歯や周辺組織に起こる可能性がある症状には以下のものがあります。
歯茎が腫れる
神経を抜いた歯の周辺の歯茎(歯肉)は、施術後に腫れる可能性があります。
腫れていない状態で痛みが出たり治まったりを繰り返していると、歯根の先端にあたる部分の歯茎が腫れる場合があります。
根管治療を行った歯が腫れる原因は、根尖病巣や歯のひび割れ、歯周病などさまざまですが、再治療を必要とするケースもあるため放置は禁物です。
歯が重く感じ、違和感がある
神経を抜いた歯は、重たく感じたり違和感があったりする場合があります。
これらの症状は、体調が優れないときや睡眠時間が不十分で疲れがたまっているときに感じやすいです。
身体の不調が落ち着くと症状も和らぎますが、また体調を崩した際に繰り返すケースが多く、後々痛みにつながる可能性もあります。
歯根破砕が起こりやすくなる
歯の神経を抜くと、歯の強度が失われ歯根破砕が起こりやすくなります。
歯髄には栄養や水分を運搬することで歯の健康を保つ役割があるため、これを除去すると歯は徐々に脆弱になっていきます。
強度が弱まった歯は、硬いものの咀嚼や強い食いしばりのほか、外傷によっても割れやすくなるため、歯を残せても結果的に抜歯になってしまう可能性は否定できません。
神経を抜いた歯が痛む原因
神経を抜いた歯が痛む原因には以下のものがあります。
麻酔が切れたことによる一時的な痛み
根管治療の直後に痛みがある場合、麻酔が切れたことで治療によって刺激を受けた部分の痛みがあらわれている可能性が高いです。
神経を抜く治療では麻酔を使用するため、施術中に感じるはずの痛みを避けられますが、麻酔が切れたときにその痛みが時間差でおとずれます。
この痛みは適切に治療を完了してもあらわれる場合があるため、基本的には心配ありません。
歯が割れてしまっている(歯根破折)
歯の根元が割れる歯根破折は、神経の有無にかかわらず痛みを生じる原因になります。
歯根破折は健康な歯でも外的要因によって起こる場合がありますが、過去に根管治療を行った歯は強度を徐々に失っていくため、外部からの衝撃だけでなく噛み合わせの力だけでも割れてしまうリスクがあります。
割れた部位や状況によりますが、歯根破折がみられる場合抜歯が必要になるケースが多く、そのままにすると、歯茎の炎症や歯槽骨が溶ける原因になる可能性があります。
神経の取り残しがある
神経の取り残しがあると、抜髄をしたにもかかわらず歯が痛む原因になります。
歯の神経を抜く治療をする場合、歯根内の根管という部分の中から歯髄を除去しますが、根管内は複雑な構造をしているため、完全に歯髄を取りきるのは非常にむずかしいです。
そのため神経を取り除く治療をした後でも、残存した歯髄が炎症を起こすことで再び痛みが生じるケースがあります。
抜髄による神経の取り残しで痛みが再発するのは、治療終了から約1年ほど経過した頃だといわれています。
歯の根に膿が溜まっている(根尖性歯周炎・根尖病巣)
歯の根に膿がたまり根尖病巣を形成し、根尖性歯周炎が引き起こされると、抜髄している歯でも痛みが生じる原因になります。
根管治療が失敗する原因でもっとも多いとされる根尖病巣を引き起こす要因には、根管治療の際の神経除去や殺菌が不十分だったり、虫歯や外傷によって根管内に菌が侵入したりするなどの理由が挙げられます。
根尖病巣によって歯の根元の組織に炎症が引き起こされると根尖性歯周炎を発症し、痛みのほかにも歯槽骨が溶けたり、歯がグラグラと不安定になったりするため注意が必要です。
噛み合わせに問題がある
歯の噛み合わせに問題があると、神経を抜いていても痛みを感じる可能性があります。
噛み合わせは、ほんの少しのズレや異物があるだけで違和感を感じる繊細な仕組みです。ズレによって不自然な方向に力が加わると、歯茎や歯根付近の組織に負荷がかかり痛みが生じます。
噛み合わせが原因で抜髄後の歯に痛みがみられる場合は、肩こりや首の痛み、頭痛などを併発する可能性があるため注意が必要です。
歯周病が進行している
神経を抜いた歯でも、歯周病が進行すると痛みを引き起こす可能性があります。
歯周病は虫歯の治療では発生を予防できないため、根管治療と同時に虫歯の治療を行った歯でも、口腔ケアをおろそかにすると歯周病はどんどん進行します。
これによって歯茎が炎症を起こしたり歯槽骨が溶けたりすると、周辺組織の痛みを歯の痛みのように感じる場合があるため、抜髄をしたあとでも歯周病の対策を怠らないことが大切です。
神経を抜いた歯が痛いときの応急処置・対処法
神経を抜いた歯が痛むときは、以下の方法で対処しましょう。
痛み止めを飲む
歯の痛みがひどいときは、応急処置として市販の痛み止めを使用する対処法があります。
痛みが急にあらわれた場合でも、すぐに歯科医を受診するのはむずかしいケースがあるため、一旦痛み止めを利用して痛みの緩和に努めるのが得策です。
しかし痛み止めの服用は一時しのぎであって、原因を根本から解決するものではありません。神経を抜いたはずの歯が痛む場合は原因を明らかにするためにも早めに歯科医にかかりましょう。
冷たい・熱い食べ物を避け柔らかいもの食べる
冷たい食べ物や熱い食べ物のほか、硬い食べ物を避けて柔らかいものを食べるようにしましょう。
冷たい・熱い飲食物は、神経を抜いて感覚が鋭くなっている歯にしみやすいため、極端に熱かったり冷たかったりする食べ物は避けるのが賢明です。
また抜髄で刺激に敏感になっている歯は、咀嚼の圧力でも痛みを感じやすいため、柔らかいものを中心にした食事をとることをおすすめします。
早めに歯科医院を受診する
神経を抜いた歯の痛みが1週間経っても改善しない場合は、早めに歯科医院を受診しましょう。
歯の痛みを放置していると、知らぬ間に口内の病気が進行する可能性があります。
神経を抜いた歯には、再治療や経過観察が必要になるケースが多いため、可能なかぎり早く歯科医に診てもらうことが大切です。
治療後の歯は、正しい口腔ケアと定期的なメンテナンスで健康な状態を保ちましょう。
神経を抜いた歯が痛いときの治療法
神経を抜いた歯が痛む原因を改善するための治療法は以下の通りです。
再根管治療
再根管治療では、一度根管治療を行った歯に対して再び同じ治療を施します。
抜髄した歯の根管内を再度殺菌することで、細菌感染による根尖性歯周炎を改善し、痛みを鎮めることが可能です。
根管治療は難易度が高く、神経の取り残しや細菌感染の再発によって根管治療を2回以上受ける必要がある患者さんは少なくありません。
また根管治療は、2回目以降は治療を重ねるほど成功率が低下していく傾向があります。
歯根端切除術
歯根端切除術は、根尖病巣を取り除くために歯根の先を切除し、根尖を塞ぐ治療法です。
再根管治療を行っても痛みが改善されず、根尖性歯周炎を繰り返す場合に適用されます。
歯根端切除術は成功率が高い治療ですが、治療可能な部位が限定されるほか、治療費が高くなりやすいのがデメリットです。
また歯茎を外科処置によって切り開いて治療するため、術後に腫れや痛みを伴いやすく、さまざまな点を考慮して別の治療法を選択する患者さんもいます。
意図的再植術(歯の再植)
意図的再植術は、問題のある歯を意図的に抜き、口腔外で歯根の先端を切除し根尖を封鎖したあと元に戻す治療法です。
歯根の先に痛みの原因である根尖病巣があるケースでは、この治療法によって直接取り除けます。
しかし抜歯の際に対象の歯が割れたりヒビが入ったりした場合、破損した時点で再植に使用するのが不可能になってしまうため、歯を保存したい場合の最終手段として選択される治療です。
咬合調整
噛み合わせが原因で抜髄後の歯に痛みがみられる場合は、咬合調整が必要です。
噛み合わせの良し悪しは、歯並びだけではなく被せ物の治まり具合によっても左右されるため、根管治療後に入れた被せ物の高さが不適当な場合は調整をします。
また、歯根膜炎が引き起こされ細菌の増殖が進むと歯が浮いてくる可能性があり、この場合も同様に咬合調整を行い、歯根膜への負担軽減を目指すことが必要です。
歯周病治療
痛みが歯周病に由来するものである場合、歯周病治療が必要です。
歯周病は抜髄では治療できないため、神経を抜いた歯が歯周病による歯茎の炎症で痛むケースがあります。
また、さらに歯周病が悪化すると膿が発生する可能性があり、一般的な歯周病治療ではなく外科的な処置を要する歯周外科治療が必要になる場合もあります。
歯周病と虫歯はまったく違う疾患であるため、根管治療の際に虫歯の治療をした場合でも歯周病を発症するリスクはゼロではありません。
歯髄再生治療
歯髄再生治療は、歯髄幹細胞を移植することで歯の神経である歯髄を再生させて象牙質を蘇らせる治療法です。
歯髄は歯の健康を維持するための役割を担っているため、抜髄することでその歯は脆くなり色褪せてしまいます。
しかし歯髄再生治療を行うと、痛みの改善のほか歯の機能や見た目の回復にも効果が期待できます。
抜歯
どの治療法でも歯を残したまま痛みを取り除くことが不可能だと判断された場合には、最終手段として抜歯を選択する必要があります。
根管治療や歯周病治療を繰り返すよりも、抜歯を選択肢して義歯で生活する選択肢を選んだほうが、お金や時間の節約につながる場合があります。
しかし、自分の歯で咀嚼ができないと心身の健康を損なう危険性も高まるため、自身の歯は一生残すに越したことはありません。
抜歯を選択せざるを得ない状況におかれないためにも、口内でトラブルが発生したら放置せず早めに歯科医にかかるのが大切です。
歯の神経を抜く治療についてのよくある質問
ここからは、歯の神経を抜く治療についてのよくある質問を紹介します。
Q:歯の神経を抜いた後の痛みはいつまで続く?
A:歯の神経を抜く根管治療をしたあとの痛みは、少なくとも1週間以内に治まることがほとんどです。
根管治療のあと、歯の周辺組織に炎症がみられたり膿が発生したりして痛みがあらわれる場合、処方された痛み止めを服用しながら様子をみましょう。
基本的に根管治療後の痛みは数日から1週間のあいだに自然に治まるとされていますが、1週間経っても痛みが治まらない場合は早めに治療を受けた歯科医を受診してください。
Q:歯の神経を抜いてから数ヶ月〜数年後に痛みが出る理由は?
A:歯の神経を抜いてから数ヶ月〜数年後に痛みがあらわれる原因には、再感染や歯根破折などさまざまなものが挙げられます。
適切に治療を受けた歯であれば、治療後1週間程度で痛みが消失することがほとんどですが、この場合でも数ヶ月後や数年後に痛みがあらわれる可能性があります。
神経を抜いた歯が痛む原因はさまざまですが、数年経過してから痛みを感じる場合は再度治療が必要になるケースが多いため、歯科医に相談してみましょう。
まとめ
今回は、神経を抜いた歯が痛む際の原因や対処法について紹介しました。
抜髄後、数ヶ月〜数年経ってから痛みが再発した場合は歯に再び異常があらわれている可能性があるため、早めに歯科医を受診しましょう。
箕面おとなこども歯科では、可能なかぎり歯や神経を抜かず、患者さんが大切な歯を残せるような治療法を提案します。
口腔外科の経験と技術が豊富な院長が繰り返さない根管治療を行うため、セカンドオピニオンとしてもご利用いただけます。
自分の歯を残したい人、他院で治療を断られた歯がある人はぜひ一度ご相談ください。